システム冷蔵庫とサービス冷蔵庫のおはなし

ホテル・旅館の客室冷蔵庫は、現在一般にサービス用冷蔵庫が殆どで、中には精々サービス用ウォータードリンクが入っている程度だ。
リゾートホテルや旅館では『70リットルタイプ』、ビジネスホテルでは『45リットルタイプ』の大きさの物が主流。
昔の様に様々なアルコール飲料やドリンク類が入っており、チェックアウト時に申告する方式を採用しているホテルは、一部の高級なホテル旅館を除いて自販機の普及とともに見かけることは少なくなった。
こうした申告の手間を省いてくれたのが、嘗て流行った『システム冷蔵庫』だ。

オープンタイプ(重量検知方式)のシステム冷蔵庫

システム冷蔵庫には2つのタイプがあったが、当時のものは殆んどオープンタイプ(重量検知型)だった。
これは市販の冷蔵庫にベンダーを組込み、ドアに電気錠を取り付けたもので、ホテル旅館の要望によりコラム数や大きさの違う様々な商品を選定し、それを何本収納するか決めて頂いた後、ベンダー加工業者に発注する手はずを踏む。
加工に際し、ドアポケットは塞がれる場合が多かったように記憶している。

フロントには、専用線で客室冷蔵庫端末機と結んだ管理コンピュータを設置し、販売と補充を一元管理する仕組みで、システム全体の流れは次の様なものだ。

冷蔵庫ドアを開け、コラムの瓶ビールを引き抜くと、納めていた棚のマイクロスイッチが上がり、その情報がフロントコンピュータに伝わる。
コンピュータは午前5時(一般的設定時間)にバッチ処理を開始、ポーリング形式で各客室の冷蔵庫の販売状況をチェックし、利用客室の売上伝票を発行すると同時に補充リストもプリントアウトされる仕組みだ。

冷蔵庫から一旦出していた飲み物なども、バッチ処理されるまでに戻しておけば、課金されることはない。
バッチ処理に際して、冷蔵庫ドアがロックされ、以降の購入は出来なくなる。
どうしてもチェックアウト前に購入したい場合は、フロントに申し出て、個別の処理をすることになる。

オープンタイプ(重量検知方式)システム冷蔵庫の弱点

オープンタイプのシステム冷蔵庫は、商品の重量検知をしているため、流石に空瓶を戻しても判別されるが、中には瓶に水を詰めて、そーっと戻す悪質なケースも稀にあったと聞く。
その後、元に戻らないタイプが現れたかは定かではない。

当時ねじ蓋の商品は少なかったため、ビール瓶などの栓を嵌め直すケースは滅多に発生しなかったと記憶している。
この重量検知部分に不具合が発生した場合は、コラムユニット全体を外さないと、メンテナンス出来ないケースもあり煩わしく、冷蔵庫の前に何時間も座り込んだ記憶もある。
また、あらかじめコラムに収める商品を決めて発注加工するため、のちに新商品が出た場合などには、対応できないケースもあった。

他にも、冷蔵庫本体側面に後付けで電気錠を取り付けているため、これの不具合もよく発生した。
電気錠は、マグネットリレーとソレノイドで構成されており、販売されていない時間帯に無理やりこじ開けようとするのかわからないが、会社には予備部品を沢山在庫して、多くのホテル様のメンテナンスに備えていた。

クローズドタイプ(扉方式)のシステム冷蔵庫

一方レジャーホテルの場合は、オープンタイプのシステム冷蔵庫では、その脆弱性を突いた様々ないたずらが発生したため、また一般ホテルの様なチェックアウト時間の様な概念がないため、対応が難しく違った方式の要望が強くなった。
そこで登場したのが、クローズドタイプのシステム冷蔵庫だ。
こちらは、ドアに施錠は無く、各コラム毎に扉が有り、この扉の開閉で販売管理する仕組みで、一旦扉のスッチを押すとその時点で購買とみなし、扉のロックは外れたままになる。オープンタイプの様に元に戻しても、課金されるタイプだ。
このタイプの場合、商品は各コラムの大きさに収まれば、商品変更設定が容易なこと。市販の冷蔵庫に組み込むのではなく、専用のシステム冷蔵庫として開発されている事から、メンテナンスの頻度も格段に少なくなった。
問題点があるとすれば、各コラムのボタンスイッチを不用意に押した場合、商品を取り出さなくても課金される点であろうか。

優れた機能が備わっているが、一般のホテルではコンビニの普及から持ち込みが増えたことで冷蔵庫の商品利用が減ってしまい、自販機の設置と共にシステム冷蔵庫を廃止して、サービス冷蔵庫を設置する動きが急速に進んだ。
そのため、クローズドタイプのシステム冷蔵庫が使われているのは、レジャーホテルが中心になっている。

コンプレッサー方式とペルチェ方式のサービス冷蔵庫

ビジネスホテルなどに泊まると、必ず客室冷蔵庫がある。コンビニなどで買い物をして、入れて置くのに便利なサービス冷蔵庫だ。
この冷蔵庫には「コンプレッサー方式」と「ペルチェ方式」の二つのタイプがある。

コンプレッサー方式の冷蔵庫

コンプレッサー方式は、家庭用冷蔵庫と同じように、コンプレッサーが作動すると動作音がする。
神経質な人にはこの動作音が気になるとの事で、外部にOFFスイッチを付けたものをよく見かける。
勿論スイッチをOFFしてしまうと、冷蔵機能は停止されてしまうが、使わない人にとっては安眠できる有難いスイッチなのだ。
おまけにホテルにしてみれば、節電にもなる。

節電と言えば、時代と共にホテル用冷蔵庫にも、インバーター方式の節電タイプが生産されるようになった。
本体価格は高くなるが、ランニングコストは安くなる。ホテル経営者にとっては悩まし選択が増えたと言える。

ペルチェ方式の冷蔵庫

一方、吸熱現象を応用したペルチェ方式には音の出るコンプレッサーが無い。その分静かで良いのだが、これまた価格が高い。
客室数の多いホテルでは大きな負担となるため、思うように普及していないのが現状のようだ。

その他にも氷が出来るほど冷却できないというデメリットもある。
氷については、今時のホテルにはアイスベンダーが備わっているため、大きなデメリットにはなるまい。
小型冷蔵庫として、お洒落なデザインの機種も多く、中には小容量の壁掛けタイプなるものも発売された。
弊社でも取り扱いしたものの、思うように普及しなかった記憶がある。

冷えないシステム冷蔵庫?

レジャーホテルには、敢えて冷蔵機能のないものが、システム冷蔵庫の隣に設置されている場合がよくある。
これを業界では”コンビニボックス”と言う。
仕組みは、クローズドタイプのシステム冷蔵庫と全く同じで、販売している商品が違う。
何を販売しても良い訳だが、最も多いのは大人のおもちゃである。
部屋にあれば、一々フロントに電話して購入しなくても、人知れず購入できてしまうわけだ。
勿論、各ホテル様の方針によってそのような販売はしていないケースもある。
その他にもカップ麺やつまみ類、タバコ、果てはメンバーズカードなどが販売されるケースもある。
流石に、おもちゃと食べ物を同時に収納していないと思うのだが、そこは定かではない。
興味のある方は、ぜひ行って確認して頂きたい。



公開日:2023年3月29日 | 最終更新日:2023年3月29日
カテゴリー よもやま話